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November 01, 2012

「新型うつ」を語るタダ乗り社員を探し出せ!

 「『新型うつ』を語るタダ乗り社員を探し出せ!」(DIAMOND ONLINE:10月31日)

 こんなのがまかり通ったら、本当のうつ病社員が迷惑するだろう。

 記事を引用する。

「うつ」をサボりの口実に使う タダ乗り学生、タダ乗り社員

男子学生A 「授業、出なくていいの?」

男子学生B 「いいのいいの、俺、教授に話して『うつ』ってことになってるから、授業ほとんど出なくても、なんとかなるから」

男子学生A 「何? 最近流行りの『新型うつ』ってやつ?」

男子学生B 「そうそう、だからサークルとか飲み会とかはOK、授業だと『うつ』(笑)」

男子学生A 「お前、ひでーな(笑)」

 先日、某大学そばのバス停でバス待ちをしているときに、隣の学生たちが交わしていた会話だ。親類か知り合いに心療内科の先生がいて、診断書を書いてもらったらしい。企業の人事担当者だったら、絶対に採用したくないタイプだろう。

 最近、この手の「うつ」の話題を新聞や雑誌で頻繁に目にするようになった。多くはいわゆる「新型うつ」に関するものだ。

 昨日も、「うつで長期休暇を取っていた社員が、ハワイでゴルフをしてリフレッシュしてきた」とか、「スキューバダイビングの資格を取ってきた」という行為について、いかがなものか、といった論調の記事を目にした。

 これらの記事に記載されている新型うつとは、仕事などについてはうつ病症状を見せるものの、自分の好きなことについては病気であることが嘘のように積極的な人を指す。

 つまり行動だけ見ると、会社や社会に「甘え」、「タダ乗り」しているように思えてしまう人も含まれている。

責任を押し付けプレッシャーから逃避
「ディスティミア親和型うつ」の正体

 新型うつの症状について学術的に日本で触れられたのは、九州大学の精神医学者である樽味伸氏が2005年に発表した論文で「ディスティミア親和型うつ」として紹介されたのが最初である。

 それまでの日本人の典型的なうつは「メランコリー親和型」と呼ばれ、責任感が強く、全てのプレッシャーを抱えこみ、ストレスに負けまいと頑張った挙句になってしまうもので、戦後の生真面目な中間管理職のイメージそのままである。

 しかし、ディスティミア親和型うつは、責任を周囲に押し付け、プレッシャーからは逃げ、ストレスには極端に弱い。

 大きな特徴として、仕事のときはうつだが遊びのときは元気、というように「日和見的」な症状を見せる。さらに、失敗の原因を他人のせいにすることで自分を守ろうとする「自己愛」の傾向が強いことも、大きな特徴である。

 だが症状としては、極度の不安や不眠、食欲不振など、メランコリー型と同じ抑うつ症状を見せる。

 ディスティミア親和型うつ及びそれに類似した事例は、この数年で激増した。これらを総称して新型うつ、あるいは現代型うつと呼ぶ。しかし、実は医学界はまだその現実に追い付いていないのが実情だ。

 つい2ヵ月前、世界で最も権威のある医学雑誌の1つであるランセット誌において、九州大学の精神医学者である加藤隆弘氏らが、この新型うつの症状(およびひきこもり)は、日本特有のものではなく、欧米を含む世界中で広く見られることを指摘した。

 さらに加藤氏らが指摘していたのは、これだけグローバルに観察される症状にもかかわらず、新型うつについてはその概念がやっと整理されてきたばかりで、明確な診断基準や治療法はほとんど整備されていないことだ。

「新型うつ」の治療法は未確立
患者の自己申告だけで判断は困難

 現在、心療内科や精神科医は、メランコリー親和型の診断に用いる基準を応用する形で診断している。療法についても現場の医者は色々と工夫をしているものの、スタンダードな治療法は確立されていない。

 このような状況で、筆者が懸念しているのは、うつを利用したフリーライダーが増えることだ。

 冒頭の例のように、「うつ」であることを証明するには医師の診断書があればよい。しかし、前述のように診断基準がはっきりしていないため、医師の診断も恣意的にならざるを得ない状況だ。そうなれば、少数ではあるが、うつであることを「利用」する者が出てきてもおかしくない。

 真面目に仕事に向き合っていれば、健康な者でも「うつ」状態になることはある。その状態だけ見れば、「うつ」と診断される可能性もある。そのため医者は継続性を見る。つまり、うつ状態が継続して起こるかどうかだ。

 しかし、診断の際は、患者の自己申告に頼る場合も多く、正確な診断が難しい場合もある。つまり「うつ」になりすますことも可能なのだ。それが新型うつの場合、「なりすまし」はますます簡単になる。仕事のときだけ「うつ」で、あとは楽しんでいてもいいのだから。

 ここで筆者が一番問題だと思っているのは、本当にうつで苦しんでいる人々が、少数の「なりすましうつ」のために、世間から間違ったレッテルを貼られたり、「甘え」だと判断されたりすることだ。

 拙著『フリーライダー――あなたの隣のただのり社員』では、会社組織の中の「タダ乗り社員」に焦点を当て、その行動パターンを分析した。タダ乗り社員とは、自分の貢献度以上の待遇を会社から得ようとして、他の社員に迷惑をかけたり、負担を強いたりする社員だ。つまり他人に働かせておいて、自分は美味しいところを持っていこうとする人々だ。

「なりすましうつ」が増えると
本当の患者にも偏見が向きかねない

 そのフリーライダーと同じ構造が、新型うつの場合にも起こっている可能性を筆者は懸念している。新型うつの場合、仕事以外では普通に振る舞ってもおかしくないこと、診断基準が確立していないことから、これまでのメランコリー親和型うつに比較して、圧倒的に「なりすましやすい」のだ。

 会社側も、「なりすましかもしれない」という懸念があったとしても、もし本当にうつの場合、本人に与える悪影響は計り知れないため、慎重にならざるを得ない。つまり、長期の優遇休暇を与えるなどの福利厚生措置を一応取らざるを得ない。

 仮に、冒頭の例の学生のような人々が「なりすましうつ」として増えてくると、うつそのものが「社会に対する甘え」「単なるサボりの口実」として認知されてしまいかねない。そのときに最も苦しむのが、本当に現代型うつにかかっている人々だ。

 そのような事態を避けるためには、明確な診断基準を早くつくることだ。医学界は今それを早急に進めているが、現代うつの原因が、本人の周囲の環境ばかりではなく、現代社会全体を覆っているグローバル化、ネット社会化という社会経済要因も大きな原因となっている可能性があるため、診断基準の設定が非常に難しい。

 これらの要因までも考慮して診断しなくてはならないならば、これは従来の精神科や心療内科の領域を超えたものとなってしまう。

 これが、現代うつの診断治療を難しくしている最も大きな理由だろう。

 では、医学界が診断基準をつくるための努力をしている間、私たちはどうするべきだろうか。部下や同僚がうつになったかもしれない場合と、自分がうつになったかもしれない場合に分けて考えてみよう。

素人が勝手に判断してはいけない
専門医による継続的な診断が必要

 まず、両者に共通して言えるのは「素人が勝手にうつと判断しない」ことだ。医学者でも判断が難しいものを、素人が判断できるわけがない。

 したがって、信頼できる医者にできるだけ継続的に診療してもらった上で、判断を仰ぐことが必要である。理想は、自分の会社組織のことをよく知っている信頼できる産業医であるが、それが叶わなくとも、できるだけそれに近い医者を探すべきである。

 部下や同僚がうつになった場合、医師の診断書には敬意を払いつつ、しかし鵜呑みにしてはいけない。複数の医師からセカンドオピニオンをもらったり、その人物と長期的な付き合いのある社員や家族に本人の様子の変化などを尋ねるなどの、総合的な判断が必要だ。

 自分がうつかもしれないと思った場合は、まず専門家に相談することである。臨床心理家でもよいし、精神科、心療内科、信頼できる社内の人物でもよい。自分の状態を客観的に他人に伝えることそのものが、大きな意味を持つ。その上で必要ならば、本格的な診断をしてもらえばよい。

 新型うつがセンセーショナルにマスメディアによって語られることに、私はあまり良い心証を抱いていない。まだ診断基準があいまいな病気について、誤診かもしれない事例をことさらに取り上げて、フリーライダー扱いをすることは、本物の「新型うつ」の患者をフリーライダー扱いする可能性につながるからだ。

 うつの問題は、今の日本社会ではすでに避けられない問題となっている。このことをしっかり認識して対処することは、医学界だけではなく、ビジネスにおいても重要だと思っている。